糖尿病の治療
糖尿病とは
食後など血糖値が上がると、インスリンという血糖を下げるホルモンがすい臓から分泌されます。糖尿病とは、インスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われずに、血糖値が高くなっている状態のことです。
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。糖尿病の方の95%以上は2型糖尿病です。1型糖尿病はインスリンを分泌するすい臓の細胞が壊れてしまい、インスリンがほとんど出なくなるために糖尿病になります。小児~思春期に発症することが多いです。2型糖尿病は、家族の方に糖尿病をもっている方が多いです。もともと糖尿病になりやすい体質、家系に加えて食べすぎ、運動不足、肥満、ストレスなどが積み重なることにより起こります。40歳以上の方に多いですが、最近は若い方も増えています。1型、2型糖尿病以外に妊娠中に発症する妊娠糖尿病、薬の副作用など特殊な原因で起こる糖尿病もあります。
糖尿病の症状について
初期には症状はありませんが、血糖が高い状態が続くと口の渇きや頻尿、体重減少やだるさがあらわれます。
何年間も血糖が高い状態が続くと体の血管に障害が起こります。特に目の血管、腎臓の血管、神経周囲の血管が障害されて起こる合併症を3大合併症と言います。
3大合併症をしめじ、その他の3大血管障害をえのきと覚えましょう。
糖尿病性神経障害は足の神経がやられて足がしびれたり、足裏に何か1枚皮がかぶっているような変な感覚が続いたりします。自律神経が障害されると立ちくらみや便秘、下痢なども生じます。
糖尿病性網膜症は目の網膜という部分の血管が障害され、進行すると眼底出血や網膜剥離を引き起こし失明することもあります。
糖尿病性腎症は腎臓の血管が傷んでしまい、腎臓の働きが悪くなります。最初は尿のなかにタンパク質が漏れ出てしまいますが、腎臓の働き自体は正常です。進行すると尿へ漏れ出るタンパク質の量が多くなり、腎臓の働き自体も低下していきます。さらに進行してしまうと腎臓の働きがほとんどダメになってしまい透析をしなくてはならなくなる場合もあります。
ほかにも比較的太い血管が障害されることにより動脈硬化がすすみ、脳梗塞(脳の血管がつまる)、心筋梗塞(心臓の血管がつまる)、閉塞性動脈硬化症(足の血管がつまる)なども生じる可能性があります。また血糖が高い状態が続くと体の抵抗力が落ちるため、感染症を起こしやすくなります。最近は歯周病や認知症、がんとも糖尿病は深い関係があることが分かってきています。糖尿病とがんにつきましてはこちらもご覧ください。
糖尿病の診断について
血糖値とHbA1c (ヘモグロビンエイワンシー:1~2か月間の血糖の状態を表す数値)で診断します。空腹時の血糖が126以上、または食後の血糖が200以上でHbA1cが6.5以上の場合に糖尿病と診断されます。また血糖が空腹時126以上か食後200以上で、喉の渇きや多尿、体重減少など糖尿病の症状がある場合にはHbA1cを問わずに糖尿病と診断できます。血糖が高くてもHbA1cが6.5未満の時は別の日に再度血糖値とHbA1cを再検査し糖尿病かどうか調べます。
当院の治療について
当院では、運動療法、食事療法、内服薬やインスリンの注射による薬物療法を行っています。
膵臓の移植が必要な場合もございますので、その場合は、信頼のおける大規模な医療機関と連携して治療を行います。
2型糖尿病の薬物療法アルゴリズム
糖尿病のお薬には大きく分けて現在10種類のお薬が存在します。2024年日本糖尿病学会から薬剤使用選択の決定に役立つ「2型糖尿病の薬物療法アルゴリズム」が発表されました。
糖尿病治療薬を選ぶにあたりポイントとなることが明記されており、これにより一般内科でもより適切な薬剤を選択しやすくなりました。
Step1 病態に応じた薬剤選択
インスリンという血糖を下げるホルモンが膵臓から出ます。糖尿病の原因には膵臓から十分なインスリンが出ない「インスリン分泌不全」とインスリンが体に効きづらい状態である「インスリン抵抗性」があります。インスリン分泌不全とインスリン抵抗性のどちらかが大きく関係しているかはそれぞれの患者さんで異なります。例えば患者Aさんはインスリン分泌不全が70%、インスリン抵抗性が30%の割合で悪さをしており、患者Bさんはインスリン分泌不全が40%、インスリン抵抗性が60%みたいな感じです。
糖尿病の原因がインスリン分泌不全がメインか抵抗性がメインか分かれば、それに適したお薬を使用できます。専門的に分泌不全や抵抗性を調べるにはC-peptide indexやHOMA-IRなどの検査があるのですが、当院のような一般の内科クリニックでは手間がかかるためまず調べません。そこで体重を指標にしてインスリン分泌不全タイプかインスリン抵抗性タイプかをざっくり推測することが示されました。肥満なほどインスリン抵抗性が強いためです。BMIという体格指数を参考にし肥満の患者さんにはインスリン抵抗性が強いと考えてインスリン分泌を促進しないビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、チアゾリジン薬やインスリン分泌を促進しますが体重減少が期待できるGLP1受容体作動薬の使用を考えます。非肥満の患者さんはインスリン分泌不全がメインと考えられ、インスリン分泌を促進するDPP4阻害薬が良い適応です。SU薬はインスリンを強力に分泌しますが低血糖のリスクもあり使用には注意が必要です。その他には食後の血糖を抑えるグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬も選択肢に入ります。まずは体重を指標として目の前の患者さんに一番合いそうな薬剤を頭に浮かべます。
Step2 安全性への配慮
糖尿病治療薬の最重要事項として安全に血糖を下げることがあります。腎臓や肝臓の機能低下がある場合や心不全などを発症している場合には使用が厳禁な薬剤、あるいは使用にあたり注意が必要な薬剤があります。また高齢者の方は糖尿病治療薬で低血糖を生じるリスクもあります。Step1で考えた薬剤が安全に使用できるか、患者さんの状態や年齢を考えて検討します。安全性に懸念がある場合にはStep1に戻り使用できそうな薬剤を再度考えます。
Step3 治療薬によって追加効果が期待できる併存疾患があるか
糖尿病治療薬の中でSGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬には血糖を下げる以外のプレミアムな効果があります。SGLT2阻害薬には血糖を下げる以外に慢性腎臓病、心不全、心血管疾患を良くする効果があります。GLP1受容体作動薬にも慢性腎臓病や心血管疾患への良い効果が報告されています。糖尿病に加えて慢性腎臓病や心不全、心血管疾患をもっている患者さんにはSGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬の使用を積極的に考えます。
Step4 考慮すべき患者さん背景
どんなに素晴らしいお薬でも患者さんにきちんと飲んでいただけなければ意味がありません。糖尿病治療薬の服用回数は薬剤により1日1回内服や2回内服、3回内服、週1回の内服や注射でいいものなどさまざまです。また必ず食事の直前に飲まないといけないものもあります。患者さんのライフスタイルや認知機能などを考慮しなるべく負担にならないものを選択します。また薬の値段も重要です。ビグアナイド薬は比較的安価ですが、一部の薬剤は高価なものもあります。こちらの説明が不十分で薬局さんに行って値段にびっくりしたという声も時々いただきます(申し訳ありません)。
以上の過程で実際に処方するお薬を決定します。あくまで使用するお薬を決定するうえで必要な考え方が示されただけで、実際にはそれぞれの医師の考えで自由に処方はできます。ただし自分のような糖尿病非専門医にとっては学会より考え方が示されたことにより、より患者さんに適した治療ができるのではないかと思います。当院でもより最適な糖尿病治療を提供できるようこの考え方を活用してまいります。